初めて文庫本のカバーを捨てた

本はできるだけ綺麗なままで手元に置いておきたい。
付いている帯は買ってすぐに背表紙の線に沿って綺麗に折って、栞代わりに使う。鞄に入れるときは折れ防止できるブックカバーを使ったり、袋に入れたりして持ち運ぶ。
友だちに借りた本は裸で借りていても袋に入れて返す。それがだいたいの本の扱い方だ。


それと全く違う扱いをしている本がある。
カバーは早々に捨てた。付箋が草むらのようになっていて、所々ページの角も折っている。黄色い蛍光ペンで何十箇所も線を引いている。巻末の解説は蛇足だと思って破り捨てたかったが、本文の裏の印刷なので捨てようがなく、読まずに、というより目に入らずに済むようにページの角を折っている。


その本は苦手な人に会う前や不安な場所に行くときのお守りで、向精神薬が恐ろしくて飲めなかったときの薬で、一度読み終えたとき絶対に手放さないと思ったから、読んだその日のうちにカバーを捨ててしまった。一房の蒲萄と三文字のタイトル。それだけでよかった。


本というものは不思議なもので、どうしようもなくなったとき、そのとき必要なものに出会えるようになっている。ドラえもんの形の缶から、ウソ800が出てきたように。そういう出会いに今まで何度も、何度も助けられてきた。


昨夜も。いや、今朝も。もうすぐ夜が明ける。