あいだに吹く風
気になっていた本を旅先で見つけるとなんだか嬉しくなって、財布の紐がたやすくほどけてしまう。
初めて行った競馬場の帰り、小倉の駅ビル書店で、前から気になっていた創元社「人と人のあいだ」シリーズのうちの一冊、田中真知「風を通すレッスン」を買ってみた。
作者プロフィールのよくわからなさに戸惑いながらも読み始めると、自分や他人と向き合うときのひりひり・じりじり・もやもやといった……とらえどころのないいろんな気持ちがやさしい文章で可視化されていて、次々変わる雲の形を、ひとつひとつ違う言葉で、子どもにもわかるように表せるような人がいるんだってびっくりしながら読んだ。
引用元の作品やエピソードも印象深いものが多く、巻末にしっかり引用元も書かれていたので読みたい本が増えた。武者小路実篤の「馬鹿一」はぜひ読みたい。宮本常一、神田橋條治と、好きな人たちの言葉が思いがけず引用されていて嬉しかった。
10代から読めるシリーズということで、ページ数は少なく文章はやさしいけれど、いろんな味がして複雑で、何度も読み返すことになると思う。寝床で読んでいた短い時間に沢山折り目がついた。
初めてカバーを捨てた本
本はできるだけ綺麗なままで手元に置いておきたい。
付いている帯は買ってすぐに背表紙の線に沿って綺麗に折って、栞代わりに使う(嫌いな奴の書評が書いてあったら即捨てる)。鞄に入れるときはブックカバーを使ったり、袋に入れたりして持ち運ぶ。
友だちに借りた本は裸で借りていても袋に入れて返す。それがだいたいの本の扱い方だった。
それと全く違う扱いをしている本がある。
カバーは早々に捨てたのでベージュの本体が剥き出しでくたびれている。付箋が草むらのようになっていて、所々ページの角も折っている。黄色い蛍光ペンで何十箇所も線を引いている。巻末の解説は蛇足だと思って破り捨てたかったが、本文の裏の印刷なので捨てようがなく、読まずに、というより目に入らずに済むようにページの角を折っている。
その本は一度読み終えたとき絶対に手放さないと思ったから、読んだその日のうちに陰気なイラストのカバーを捨ててしまった。裸のままで、お守りのように鞄に、コートのポケットに入れて、どこへ行くにも持ち歩いていた。
本というものは不思議なもので、どうしようもなくなったとき、そのとき必要なものに出会えるようになっている。ドラえもんの形の缶からウソ800が出てきたように。
何もかもどうしようもなかった26歳のとき、私は本当に手放せない本ほど、汚く読むようになった。